叶わぬ恋だと分かっていても
 プラットホームのど真ん中辺りを、そこそこ大きな荷物を抱えて歩いていても誰にも迷惑をかけなくて済むのが有難かった。


 なおちゃんに言われた通り指定席のチケットを買ったので、ホームに書かれた案内に従って、自分が乗る車両の昇降口付近まで行くと、近くにあったベンチに腰掛けた。


 福岡まで1時間ちょっと。
 新幹線の待ち時間含め、あと2時間もしないうちになおちゃんに会えるんだって思ったらワクワクして。

 大っぴらには出来ないイケナイ旅行なのに、大好きな人に会えると思うだけで浮き足立ってしまう心に、時折隙間風が吹き込むみたいに罪悪感が流れ込んだ。

 なおちゃんは、彼より3つ年下だという奥さんは、自分のことを「亭主元気で留守がいい」と思っているタイプで、なおちゃんに対して【異性としての】愛情なんて微塵も持ち合わせていないと言うの。
 奥様がなおちゃんからの夜の誘いに乗ってこなくなったのは、次男さんが生まれて以来ずっとなんだそうで。
 自分は彼女にとって〝子供を得るためだけの都合の良い男〟なんだよと自重気味に笑ったのが印象的だった。
< 94 / 242 >

この作品をシェア

pagetop