叶わぬ恋だと分かっていても
「ありがとう、なおちゃん」

 ギュッと彼の服のすそを掴んだら「菜乃香(なのか)、会いたかった……」ってなおちゃんがつぶやいて。

 ここまでずっとひとり、なおちゃんのご家族への罪悪感と闘いながら新幹線に揺られてきた私は、その瞬間プツッと緊張の糸が緩んでしまって、鼻の奥がツンとするのを感じた。

 毎日のように逢瀬を重ねていたなおちゃんと、たった数日間とはいえ会えずにいた寂しさも、涙腺の決壊に拍車をかける。

馬鹿(バッ)。何で泣くんだよ」

 私の目が潤んで、ポロリと一粒涙がこぼれ落ちたのに気が付いたなおちゃんが、驚いたみたいに荷物を足元におろして私をギュッと抱きしめてくれて。

「ひとりで新幹線乗んのが怖かった……ってわけじゃねぇよな?」

 ってオロオロするの。なおちゃんのそう言うところが、堪らなく大好きだって実感させられる。


「そんなわけな、いっ」

 グスグス鼻をすすりながら反論したら、「だったら何なんだよ」って困ったみたいな声音が頭上から降ってきて――。

 そろそろと(いたわ)るように背中を撫でられた私は、ますます涙が止められなくなって困ってしまう。

「ごめっ、自分でもよ、く、分かんな、……」
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