私のヒーロー。
 一通り元彼の悪口を喋って友理奈がスッキリした表情になったのは、午前2時を過ぎた頃だった。
 自分の気持ちに整理がついたのか友理奈はジュースを飲むのをやめて一階のキッチンから持ってきたミネラルウォーターを飲みながら未那に言った。
「そういえば、未那って好きな人いるの?」
「好きな人…?それって恋愛感情がある人ってことだよね?現在進行形の」
 そう返した未那に友理奈はプッと笑った。
「そうに決まってるじゃん」
「そうだよね」
「で、好きな人は?」
 そう言って友理奈は目をキラキラさせてきた。
 はやく、はやく。答えて。
 そんな言葉が言われた訳じゃないのに聞こえてくるような気がする。
 未那は小さく深呼吸をして言った。
「ハル」
「え?」
「だから、ハルだよ。ハル」
「ハル?誰それ?」
 きょとんとする友理奈の表情は本当に誰なのか分からない、と言いたげに見えた。
 そりゃそうだろう。“ハル”は未那が勝手につけて未那だけが彼に対してそう呼んでいるニックネームなのだから。
「幾田春輝。小学校の時同じクラスだったあの子」
「え?未那って幾田のことが好きだったの?」
「うん」
 こくりと頷いた未那に対して友理奈「え、待って待って」と1人で声をあげた。


 でも、そんな彼女を見て未那はあまり不愉快な気持ちにはならなかった。
 多分、未那が友理奈の立場でも同じような反応をすると思う。それだけは確かだった。
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