全部欲しいのはワガママですか?~恋も仕事も結婚も~
「ごめん、ちょっと性急すぎた。郁海が好きすぎて……」


 唇を離した魁が、至近距離のまま殊勝な面持ちでつぶやいた。
 がっつくように私を求めたこの状況を、少々反省しているようだ。


「落ち着いて? 私は逃げないから大丈夫だよ」

「これで逃げられたら、さすがに落ち込むわ」


 おでこをくっつけ合いながら、ふたりでクスクスと笑う。
 なんだか心も体もくすぐったい。こんなにキュンとする恋愛をするのは本当に久しぶりだ。


「魁、お腹空いてるんじゃない? 夕飯まだでしょ?」

「ああ……まぁ……」

「冷蔵庫に作り置きがあればよかったんだけど、今日はなにもなくて……。チャーハンでよかったらすぐ作るよ」


 なぜ今日に限って冷蔵庫になにもないのかと小さく溜め息を吐きながらキッチンへと向かう。
 白米を炊いておいてよかった。冷凍庫に焼豚があったはずだから、簡単なチャーハンならできそうだ。

 まな板や包丁、フライパンをあわてて準備しているところへ魁もやって来て、私の背後にピッタリとくっ付いた。
 バックハグの姿勢で後ろから私のお腹に両手を回し、左肩に顔を乗せてくる彼の行動にドキドキと心臓が高鳴る。


「作ってくれるのはうれしいけど……無理させてない?」

「え、全然!」

「それならいいけど。俺、ちょっとコンビニで飲み物買ってくる」


 背中から体が離れていくのと同時に、私は上半身をひねって振り返った。

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