全部欲しいのはワガママですか?~恋も仕事も結婚も~
『郁海、恋人ができたの? だったら一度うちに連れてらっしゃい。どんな人なの?』

「どんなって……」


 相手が魁だと知れば、母はどう反応するだろう? 卒倒するだろうか?


『いいお相手なんだったら、その人と結婚しなさいよ。そういう話は出ていないの?』

「まだ付き合いだしたばかりだもの。でも……結婚はしないかもしれないよ。わかんない」

『まさか郁海……相手の男性に奥さんがいるんじゃないでしょうね?!』


 結婚しないかも、という私の発言で、母の思考はそっちに飛躍したみたいだ。
 フフッと口元が緩む。魁についてはその心配はいらないのに、と。


「不倫なんてもうしないよ」

『“もう”って、なに? したことあるの?!』


 しまった。口が滑った。
 思わず自分の口を覆ったが、後の祭りだ。


「そんなわけないでしょ! 今のは間違って言っただけ!」

『そうよね。……私の娘だもの。そんなバカな真似はしないわよね』


 駿二郎との不倫はもう終わったことだし、母の耳に入れたくはない。
 家族には言わず、私が墓場まで持っていかなければ。


『本当に大丈夫なのね? きちんとしたお付き合いをしてる人なら親に紹介できるでしょう?』

「うん……そのうちね。ちゃんと話すから」


 ここまで話してしまえば、根掘り葉掘り聞かれるのは時間の問題だろう。
 一対一で母と対峙するのではなく、父と妹に味方についてもらった上で、魁のことを話そう。
 作戦としてはそれしかないな……などと、このときは呑気に構えていた。

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