全部欲しいのはワガママですか?~恋も仕事も結婚も~
「郁海、おはよう」

「おはようございます、由華(ゆか)さん」

「今日も暑いね!」


 しばらくすると、一年先輩の社員である木ノ内 由華(きのうち ゆか)さんが出勤してきた。
 新入社員のころに仕事を教えてもらったのをきっかけに、年齢が近いのもあってかなり仲良くなった人だ。

 由華さんも長年、私と同じ商品企画部に所属していたのだが、半年前にマーケティング部に異動になってしまった。
 我が社は一応大手企業なので、自社ビルの中でいくつもの階に部署を分けて業務しているのだけれど、私たちの部署は同じ階だから、朝はまたこうして自然と顔を合わせることができている。
 時間が合えばランチも行くし、同僚というより親友に近いかもしれない。 


「あ、そうだ。昨日、うちの勅使河原(てしがわら)部長にね、『君はもういい年齢なのに結婚はまだなのか?』って聞かれちゃったわ。アハハ!」

「え?! アハハって……笑いごとじゃないですよ。立派なセクハラじゃないですか! 由華さん、そこは怒るとこ!」


 マーケティング部は前任の部長が先月末に定年退職したため、今月から新しい部長が就任したばかりだ。
 勅使河原部長は五十代半ばの男性だが、ずっと前から役職者なのだし、きちんと“ハラスメント研修”は受けているはず。

 なのに、ひどいセクハラ発言だ。女性社員に対する接し方がわからないのだろうか。
 当の本人である由華さんよりも、私のほうが腹が立ってきた。

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