全部欲しいのはワガママですか?~恋も仕事も結婚も~
「周りの社員から『部長、その発言はダメです!』って注意されてたわ。私もほかの子に同じようなこと言ったら怒るけどさ。もう……しょうがないよ。今のご時世はアウトなんです!って指摘されても、頭が硬くてなかなか変われないんだよ。それはそれでかわいそう」

「由華さんはやさしすぎますよ」

「『一度結婚したけど失敗しました。バツイチです!』って満面の笑みで答えたら、部長は苦笑いしながら顔を引きつらせてた。逆に気の毒だったかな?」


 実は由華さんは三十歳のときに一度結婚した。
 交際一ヶ月での電撃婚で、商品企画部の社員たちで盛大にお祝いしたのだけれど、半年後にスピード離婚してしまったのだ。幸せは長く続かなかったらしい。

『プロポーズされたから結婚したんだけどダメだったわ~』と、表向きはあっけらかんとしていた当時の彼女を思い出す。
 
 相手のことをよく知らないまま結婚したから、人と人との絆みたいなものが築けていなくて、それがいけなかったのかもしれないと話していた。

 なんでもないような素振りを見せていた由華さんだったけれど、きっとすごく傷ついていたと思う。
 
 夫婦間で決定的な亀裂が入るような事柄があったのか、なかったのか、くわしいことは私は知らない。
 由華さんも話さないし、私も踏み込んで尋ねないから。
 でも、本当は彼女は離婚したくなかったのではないかと邪推してしまう。といっても、今となっては八年も前の話なのだけれど。

 夫婦をやっていくというのも難しそうだ。


「結婚してるとかバツイチだとか、仕事にはまったく関係ないですよね! 勅使河原部長は古い」

「たしかに一世代(ひとせだい)前の考え方だわ。男は結婚して一人前、女は早く嫁に行け、みたいな」


 この国は男女共同参画社会を目指して何年経っていることか。
 少しずつジェンダーレスが浸透しつつあるものの、まだまだ私や由華さんのような人間はなんとなく肩身が狭い。

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