全部欲しいのはワガママですか?~恋も仕事も結婚も~
***

 それから四日が経ち、私が商品企画部で働く最後の日になった。週が明けた月曜日からは直営店での勤務だ。
 今日は後輩たちが送別会を計画してくれたので、仕事終わりに居酒屋へ立ち寄り、お疲れ様でしたと声をかけあってビールで乾杯をする。


「いやぁ、及川さんがいなくなったらさみしくなりますよ!」


 程よく酔っぱらった峰松くんが私の隣に来て、眉尻を下げながら悲しそうな顔をした。


「峰松くんって、案外いいヤツだよね」


 お世辞上手もここまでくるとたいしたものだ。彼みたいなタイプが、実は出世したりする。


「良い企画をどんどん考えてね。私はしばらく店舗で修行してくる」

「俺、自信ないっすよ。里中部長はまだいいとしても、山路本部長に認めてもらえるような企画書が出せるかどうか……」

「ははは」


 駿二郎は仕事に関しては厳しい一面があるからか、わりと恐れられている存在みたいだ。
 本部長という肩書なのだから、怖がられるくらいでちょうどいいのかもしれないけれど。


「あ、そういえば。本部長が社内不倫してるって噂、聞きましたか?」

「……あぁ……少し」


 まさか峰松くんからこの話題を振られるとは思わなかったので、驚いてむせ返しそうになった。
 酔いは一瞬で醒め、心臓が痛いくらいにドキドキとしてくる。

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