全部欲しいのはワガママですか?~恋も仕事も結婚も~
「あれ? なんか顔が青いですよ? 大丈夫ですか?」

「ちょっと悪酔いしちゃったかな。大丈夫」


 峰松くんが指摘するくらいだから、今の私は感情が相当顔に出ているのだろう。
 ここが居酒屋でよかった。すべてお酒のせいにしてしまえる。


「もしかすると、土屋さんは会社を辞めるんじゃないですかね。営業部でバリバリ働いてた人が総務部の日陰のポジションに追いやられたら、やる気失くしますよ」


 我が社では営業戦略本部が営業部、商品企画部、マーケティング部の三つを束ねていて、その情報をもとに営業戦略を練っている。

 土屋さんは入社七年目の社員で、営業部の中でもとても優秀だと一目置かれている人だ。
 上品でゴリ押ししない営業はクライアントからの評判が良く、なにか小さなクレームが来てもていねいに対応するそうで、なにかと信頼が厚い。

 彼女はずっと営業部畑なので、駿二郎が雛から育てたようなもの。
 仕事上、密接に接点があった土屋さんと彼が、男女の関係に発展したというのは……ありえる話だ。


「しかし、奥さんが妊娠中だからって、本部長はあの歳でお盛んですね」

「土屋さんとは何年も前からなのかな?」

「そこまではわからないですけど。でも非情ですよね。不倫しておきながら、ヤバくなったらなにもなかったみたいに切り捨てるって……」


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