全部欲しいのはワガママですか?~恋も仕事も結婚も~
 隣に並んで歩いていたのは、彼と同い年くらいの清楚な感じの女の子で。
 ふたりは互いに笑みをたたえながら、楽しそうに会話を交わしていた。

 頭よりも高く上げていた右手は行き場を失くし、そのまま力なくだらりと降ろすしかない。
 声をかけなくてよかった。危うくふたりの邪魔をするところだった。

 ほらね、魁の言葉を正直に真に受けなくて正解。

 そもそも“がんばる”と言われただけで、どういう意味かははっきりと聞いていないし。
 モヤモヤさせるようなややこしい発言をするな、とお説教したいくらいだ。

 私が初恋相手だったのは本当だけれど、それはもう昔の話で、今は可愛らしい恋人がいる……そんな感じだろう。

 
 というか、私が今悩むべき相手は魁ではなく駿二郎だ。そちらに頭を切り替えなければ。

 土屋さんと不倫関係にあるのは真実か否か。
 まずそれを今すぐにでも正面切って彼に確かめたい。

 だけど、私は強烈な臆病風に吹かれていた。

 自分の欲しい答えはきっと返ってこないと想像できたからだ。

< 59 / 149 >

この作品をシェア

pagetop