全部欲しいのはワガママですか?~恋も仕事も結婚も~
「俺、納得いかなくて、本部長を直接問い詰めたんです。そしたらここに異動になりました。究極のパワハラですよ」

「本部長のこと、恨んでるんだね」

「当然です」


 土屋さんは社内に道長くんという恋人がいながら、駿二郎との不倫に走った。
 恋は盲目とは言うものの、バレたらこういう状況に(おちい)ると想像できなかったのだろうか。

 道長くんだって、元はこんなにも情念の炎を燃やすタイプではなかったのだと思う。
 ある意味、土屋さんが彼を変えてしまった。これも不倫がもたらした弊害だと言える。

 道長くんには、嫉妬や怨恨(えんこん)の情に心を支配されないでほしいと願うばかりだ。
 

 駿二郎はなんて罪作りな男なのか。
 いくらモテるとはいえ、奥さんに私に土屋さん……。結局彼は全員を傷つけて、女性たちの幸せを壊している。

 そう考えたら、頭の中がスーッと冷静になって虚無感に襲われた。
 不倫という危ない橋を渡ってでも得たいものがあったはずなのに、それすら無価値で滑稽に思えてくる。 
 私はこの二年間、なにに囚われていたのだろう。


 駿二郎本人に事実確認したいことがどんどん増えてくる。
 だけど連絡したところで『今は会えない』と返事が来るに決まっている。

 そのうち彼からメッセージが送られてくるだろうと最初は呑気に構えていたものの、未だに一向に音沙汰がない。
 この状況で完全放置とは。言い訳をする気もないのだろうか。

 このまま連絡が途絶えた状態が続けば、私と駿二郎は自然消滅になってしまう。
 私たちはそんなにも簡単な関係だったのかと思うと、胸の中がモヤモヤして仕方ない。

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