全部欲しいのはワガママですか?~恋も仕事も結婚も~
「大丈夫ですか? 大通りでタクシー止めます?」


 カフェを出てゆっくり歩くほのかさんを気遣うと、彼女は私に柔らかく微笑みかけた。


「ありがとう。大丈夫です。もう安定期に入ったので」

「なんだか心配です。家まで送りましょうか?」

「及川さんは本当にいい人ですね。こんな形で出会わなければ友達になれたかも」


 彼女の言葉を聞き、私も苦笑いしながらうなずいた。
 それと同時に、彼女を守りたくなる駿二郎の気持ちがわかってしまった。
 ほのかさんはそういう独特の魅力を持つ女性だった。


「今日はお時間取らせてごめんなさい」


 私があまりにも心配するからか、彼女はやっぱりタクシーで帰ることにしたようだ。
 車に乗り込む際、律儀に私に会釈をしてくれた。


「お体に気を付けて。母子ともに無事なご出産をお祈りしています」

「及川さんも、お元気で」


 ほのかさんとは、もう会うことはないだろう。
 私は彼女が乗ったタクシーの車体を小さくなるまで見送った。

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