全部欲しいのはワガママですか?~恋も仕事も結婚も~
「そこは“奢る”じゃなくて、郁海の手料理がいいなぁ」

「え、そんなのでいいの?」

「そっちのほうがいいに決まってるよ。ていうか、どっちにしろ俺とまた飯を食うのは確定だな」


 自動的に次の約束を取り付けたとほくそ笑む魁に対し、私はとまどって小さく息を吐いた。


「私は別に嫌じゃないんだけどね。でも……いいの? 今日もそうだけど、私と食事なんかして。彼女が知ったら嫌な気持ちになるんじゃない?」

「……彼女? そういう存在がほかにいたら郁海を口説いたりしないだろ」


 ポカンとしながら言葉を紡ぐ魁を見て、私も伝染したように小首をかしげた。

 そんなはずはないと思い込んでいたが、魁は私を口説くつもりでいたのだとあらためて思い知らされた。
 本気なのかまだ疑わしいものの、はっきりと宣言されたことで、自動的に胸がドキドキしてくる。


「でも以前、夜の駅で見かけたよ? かわいらしい女の子と一緒だった」

「誰だろ?……ああ、飲み会の帰りか。あれはただの同僚。見かけたなら声をかけてくれよ」


 どうやら魁もあの夜のことを思い出したらしい。
 声なんかかけられるわけがないでしょう。
 そんな行動を取れば、連れの女の子に睨まれるに決まっているもの。

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