全部欲しいのはワガママですか?~恋も仕事も結婚も~
「実は最近まで付き合っていた人がいたの。その人には奥さんと子どもがいた。でもね、いつかは終わりにしなきゃいけない恋だったし、結婚を意識しないで済んでいたから、逆にそこは気が楽だったの」

「そんなの、本気で恋愛してないじゃないか」

「うん。だって身を焦がすような恋をするのは怖いもの」


 駿二郎のことは好きだったけれど、真剣さを求めてはいなかった。
 向こうも求めてこないのは初めからわかっていたので、互いにちょうど良かっただけなのだ。運命の相手でもなんでもない。


「私、不倫してた女なのよ。引いたでしょ?」

「引かないよ。で、その男と比べて、どうして俺はダメなんだ?」

「…………」


 魁は見た目もカッコいいし、明るくポジティブな性格で、頭もいい。
 頻繁にメッセージを送ってきて、今日のように私を楽しませようとしてくれる人だ。

 ひとりの男として見てみれば、ダメな部分などない。
 しいて言えば、私にはもったいないところかな。


「年の差があるから? 男に見えないか? だけど、心から郁海を好きなただの男だ」


 魁の切れ長な瞳が、目力を込めて私を射貫く。
 こんなに真正面から気持ちをストレートに伝えてくる彼を、とても男らしく感じた。

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