初恋ラストレター
「明日、頑張って声かけてみたら?」
「えっ」
「気になるクラスメイトに。蛍ならできるよ。もう俺と普通に話せてるし」
「……そんなこと」

 言いかけた言葉をごくんと飲み込む。


 ──さっき蛍さんに無視されたんだけど。いつも何言ってるかわかんねぇし。マジでムカつくよな。


 その男子の言葉だけ、今でも鮮明に覚えている。

 怖くて声が出なかった。話すことに臆病だった私が、今はそれなりの声量を出せていた。少しずつだけど、宮凪くんとなら友達になれる気がする。


 薄暗くなった景色を背景にして、小さく手を振った。ぬかるんだ地面を踏みながら、宮凪くんが笑うと八重歯がのぞく。そんな何気ない表情が可愛らしく思えて、手紙のやり取りを思い出す。

 女の子じゃなくても、宮凪くんはやっぱりウミちゃんだ。明るくて優しくて、強い。

 いつか私も、あんなふうになれるかな。


 雨上がりの空気は、いつもより澄んで感じる。明日は、いいことが起こる気がした。
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