初恋ラストレター
***
「ぼ……ぼくら……ぼく……」
オーディション当日の朝、声が出なくなった。
歌おうとしても、掠れた弱々しい音が聞こえるだけ。何度試してもダメで、歌詞は外へ出た瞬間に塵のように消えていく。
昨日の練習が原因かもしれない。
頑張らなきゃと思って、変に力み過ぎた。あきらかに甲高い声が出て、思い切り音を外してしまったの。
歌の途中でも、笑われたのがわかった。前の人の肩が揺れていたし、隣からもクスッとしたのが聞こえたから。
練習の終わりには、沢井さんたち三人が寄ってきて、
『春原さん、無理しなくていいよ。ちょっと合ってないって言うか、逆に目立っておかしくなってたし』
バカにしたような口調ではなく、彼女たちなりの気遣いだったのだろう。大きな声を出すことが苦手な私と、曲のまとまりを乱さないための。
五限目の時間、三年生は体育館に集められ、クラスごとに合唱を披露していく。
一組も二組も、一体感があって綺麗だった。実際に聞いてみると、想像以上に上手く感じる。
三組の番になった。自分の場所に立ったとき、頭の中が真っ白になって、出だしの歌詞が飛んだ。遅れて口を開くけど、心ここにあらず──。
ほとんど声を出せないまま、上の空でオーディションは終わった。
みんなは『今までで一番よかったよね』『うちら、思ったよりいい感じじゃない?』と晴れ晴れとした顔をしている。
先生たちには、きっと私が口パクだったなんてわからない。練習と違って聴く側とは距離があったし、一人くらい歌っていなくても声量は変わらないだろう。
でも、胸の奥がズキンとして、モヤモヤした。
私はいない方がよかったと、言われているみたいに感じたから。
そんなこと、誰も思っていないかもしれないけれど。一度とらえてしまったら、その呪いは消えない。
「ぼ……ぼくら……ぼく……」
オーディション当日の朝、声が出なくなった。
歌おうとしても、掠れた弱々しい音が聞こえるだけ。何度試してもダメで、歌詞は外へ出た瞬間に塵のように消えていく。
昨日の練習が原因かもしれない。
頑張らなきゃと思って、変に力み過ぎた。あきらかに甲高い声が出て、思い切り音を外してしまったの。
歌の途中でも、笑われたのがわかった。前の人の肩が揺れていたし、隣からもクスッとしたのが聞こえたから。
練習の終わりには、沢井さんたち三人が寄ってきて、
『春原さん、無理しなくていいよ。ちょっと合ってないって言うか、逆に目立っておかしくなってたし』
バカにしたような口調ではなく、彼女たちなりの気遣いだったのだろう。大きな声を出すことが苦手な私と、曲のまとまりを乱さないための。
五限目の時間、三年生は体育館に集められ、クラスごとに合唱を披露していく。
一組も二組も、一体感があって綺麗だった。実際に聞いてみると、想像以上に上手く感じる。
三組の番になった。自分の場所に立ったとき、頭の中が真っ白になって、出だしの歌詞が飛んだ。遅れて口を開くけど、心ここにあらず──。
ほとんど声を出せないまま、上の空でオーディションは終わった。
みんなは『今までで一番よかったよね』『うちら、思ったよりいい感じじゃない?』と晴れ晴れとした顔をしている。
先生たちには、きっと私が口パクだったなんてわからない。練習と違って聴く側とは距離があったし、一人くらい歌っていなくても声量は変わらないだろう。
でも、胸の奥がズキンとして、モヤモヤした。
私はいない方がよかったと、言われているみたいに感じたから。
そんなこと、誰も思っていないかもしれないけれど。一度とらえてしまったら、その呪いは消えない。