初恋ラストレター
 土曜日に二十時を過ぎたことが決定打になったようで、それは私も反省している。

『蛍は危機管理が疎すぎるの。中学生の女の子がこんな時間までどこへ行ってたの? ほんとにお友達なの?』

 宮凪くんの名前は、出さなかった。男の子と一緒だったと知ったら、父が発狂しかねない。

 今日は、少し会ったら帰宅するつもりだった。これからはあまり長くいられないけど、また会いたいと伝えるためにも。
 その浅はかな気持ちが、神様の逆鱗(げきりん)に触れたのかもしれない。

 部屋の窓から、満月が顔を出していた。欠けてゆく月がまた丸を描いたら、宮凪くんに会える。


 約一ヵ月、私は公園へ寄ることなく、言いつけ通りに真っ直ぐ家へ帰った。連絡を取る手段もなくて、『私もしばらく来れません』と告げた手紙を残し、六月も中旬を過ぎた。

 日が暮れる前ならいいと許しを得て、いよいよ明日は堂々と会いに行ける。そう浮かれて出かけた日曜の午後。駅近くの本屋を出たところで、偶然会った。

 肩より短いボーイッシュな髪、デニムをすらっと履きこなした真木さんと。

 友達らしき人といる。話したこともないし、この前のことがあるから気まずい。目を合わせないよう下向き加減になるとすぐ、「春原さん?」と声がした。
< 44 / 97 >

この作品をシェア

pagetop