初恋ラストレター
 一度もこちらを見ないで、宮凪くんは吐き捨てた。思いのほかつまらなくて、録画したシーンを飛ばすみたいに。
 今まで過ごした日々が、架空の物語のように思えて、胸が締め付けられる。

 なかったことにされるのは苦しいけど、迷惑をかけていたことに違いはない。

「これだけ、教えて。そしたら帰ります。もう、来ないから。体調……よくないの?」

 小さく息を吐く音に続けて、わずらわしそうに。

「ただの検査入院。異常ない」

 それが答えだと分かった。じわじわとあふれ出す血液で、傷口はもう見えない。

「……よかった。いろいろ、ごめんなさい」

 無反応の背中に別れを告げて、私は病室を後にした。ベッドの傍に、餞別(せんべつ)と言わんばかりの紙袋を残して。

 病室にいた時間は五分もなくて、待っていた母が「もういいの?」と目を丸めた。それほど僅かな時間だったのかと後で知るくらい、私にはとても長く感じた。
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