雪のとなりに、春。
ぺこりと頭を下げる。


「この間はすみませんでした!!」

「いやいや、あれは本当に私の不注意でもありますし……それに、あの、どうかされました?」

「あ、あの、もしかして、これ落としました?」

「え、ああ……ありがとうございます」


持っていた手帳を見せると、またもにこりと笑って大切そうにそれを受け取った。


「とても大切な手帳なんです。本当にありがとうございます」


余程大切なのが伝わってくる。
気づけてよかったなあ。本当に歩きスマホはよくない。


「いえいえ、そんな、頭を上げてください……」


とはいえそこまで深々と頭を下げられると、せっかくいいことをしたのにこっちが申し訳ない気持ちになる。
この間のスーパーの前でも、この人はこんな気持ちだったんだろうなと、余計に申し訳なくなった。

やっと頭を上げたその人は、困ったような微笑みを浮かべていた。


「なにかお礼をさせてください」

「え、そんな、いいんですか?」

「もちろんです」


うーん。お礼が欲しくて落し物を拾ったわけじゃないんだけどなあ……。
でもこの調子だとなにかしらお願いしないと引いてくれなさそうだし……。

そこまで考えて、1つの答えにたどり着く。


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