雪のとなりに、春。
「『大切な人』というのは、もしかして彼氏さんのことですか?」

「へっ!? あっ、は、はい……」


マスクをしているせいで目元しか見えないけれど、代わりに目が細められた時の不穏さもあってどきりとする。


「どんな人なのか、聞いてもいいですか?」

「え、ええっと……」


どんな人なのか。
一言で説明するにはあまりにも難しい。


「……とても、笑顔が素敵な人です」

「なら、とてもお似合いなんでしょうね。あなたも素敵な笑顔をする方ですから」

「お、お似合いだなんてそんな……私にはもったいないくらいの素敵な人です。普段はクールで、何でもできる完璧な人で、でも笑うとかわいくて実は苦手なこともあって……」

「ああ……」

「――え、?」


気のせい、かな?
隣から聞こえていた声が、少しだけ低くなった気がした。


「いますよね、努力しなくても何でもできちゃう天才って」


ゆらりと、ろうそくの炎が消える時のような余韻を残して。
またすぐにいつもの少し高い声に戻った。

どきりとしたのを悟られないように、笑ってみる。

雪杜くんは確かに天才人間だけど、この人の言うのとは違う気がする。
たぶん、人が見ていないところでたくさん努力をしているんだと思う。

きっと結果で努力を見せつける人だと私は思うのだ。

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