雪のとなりに、春。
ねえ逃げようよ、そのあとゆっくり話そう?
とりあえず今はあの変な人と距離を置こう? ね、そうしよう?

荷物を床に置いて、雪杜くんの元へ駆け寄った。


「先輩、なんで、気付いて」

「今はとりあえず逃げようよ、ね」

「ひどいなー。せっかく中に入れてあげたのに、もう行っちゃうの?」

「っ!?」


奏雨ちゃんの姿のその人は、薄ら笑いを浮かべながらリビングに入ってきた。

バレたと分かって開き直っているのか、さっきまで内股になっていたはずの棒のように細い足が軽く外側へ曲げられる。
両腕は後頭部で組まれ、驚いている私と視線がぶつかる。
八重歯が見えるくらいにニッと笑った。

ざらつきのある声で、その人は続ける。


「さっきぶりだね、小日向花暖チャン」

「え、え……!?」


後頭部で組まれていた腕が解かれ、長くて綺麗な髪の毛をぎゅっとつかむ。
そのままズルッと引っ張ると、淡い青色から白に近い銀色が姿を現した。
青いピアスがちらっと見えたけれど、すぐに髪の毛がかかって見えなくなる。

前髪を整え、ビー玉のように透き通るような目が私をとらえた。


もしかして。

……もしかして。


「し、親切なお兄さん!?」


先日私がスーパーでぶつかって、今日は道を教えてもらった、あの……!?

で、でも、待って。

疑問が浮かび上がって頭の中でぐるぐると回転する。

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