雪のとなりに、春。
「そんなの、ナツメが嫌がるからに決まってるでしょ。ナツメが嫌がることならオレ、なーんだってするよ?」


子供のようにいつまでもおかしそうに笑っている。
なのに、言ってることがまるで普通じゃない。

「当たり前でしょ?」と言われるから、私は反射的に首を横に振った。


「人が嫌がることをするなんて変だよ、雪杜くんの従兄なのに、なんでそんな……」

「ええー?」


どきりとする。

楽しそうに聞こえていた高めの声が、少しだけ低くなったからだ。


「やだなあー……カノチャンもナツメと比べるのー?」


突き刺すような視線と共に投げかけられる言葉にハッとした。

――『いますよね、努力しなくても何でもできちゃう天才って』

あれは、あの時言っていたのは、雪杜くんのことだったんだ。


「おめでたさんなカノチャンは色々勘違いしてるみたいだから教えてあげる。オレねー、ナツメのこと嫌いなんだよ」


にこりと笑って言うセリフじゃない。

自分に対しての言葉じゃないのにこんなにも突き刺さる強い言葉。

下唇を噛んでキッと睨めば「そんなに怖い顔しないで」と軽く笑われてしまう。


「オレさー、こんなんでもちゃーんとナツメのこと守ってたんだよ?」

「………え……?」


私の後ろから、雪杜くんが声をこぼす。

守ってきたって、いったいどういうことなんだろう。
まだ2人が小さい頃の話……?

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