雪のとなりに、春。
「ナツメ、気付いてなかったでしょ。お前がこっそり家から抜け出して遊んでるの、あれ本当は母さんに全部見つかってたうえで見逃してもらってたんだぜ?」

「……」

「あれ、オレが母さんの機嫌とってやってたおかげだから。母さんのことはほとんどオレが背負ってたから」


皐月さんのお母さん。

……雪杜くんの言っていた「おばさん」のことだ。

ほんの少しだけれど、雪杜くんの話を聞いたときになんとなく厳しそうな人なんだろうなと思ったのを覚えている。


「オレの努力なんてなーんも知らないクセに、『天才』って周りから言われてさ」

「それは「雪杜の出来損ないが」


反論を許してくれない。
いやに重みのある言葉がぎゅっと締め付けてくるみたいに苦しい。


「カナメがお前に惚れたって言ったときはさすがに気が狂いそうになったぜ。もちろん出来損ないに愛娘が惚れたなんて、あの母さんが許すわけねーしな。……でも、あいつが初めてこぼしたワガママなんだ。そんなの、お兄チャンが叶えてやらなきゃだめだろ」

「もしかして、奏雨が言ってたおばさんからの条件って」


察したように雪杜くんが口を開いた。
私はその場に立ち尽くして、ただ聞いていることしかできなかった。


「っそ。オレが母さんに頼み込んで、カナメにチャンスを上げてもらったの。なのにさー? なに彼女とかつくっちゃってんのナツメてめぇ」

「……っ」


雪杜くんから私へと移された冷たい目に睨まれて、呼吸の仕方を一瞬忘れた。


――『あなたは、わたしから奈冷を奪ったのよ!?』


……痛い。
でも、奏雨ちゃんの方がもっと痛い。
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