雪のとなりに、春。
「……皐月」

「なんだよ、雪杜の出来損ない」


ジリッと焦げたように心が痛む。

どれだけ嫌いだったとしても、これほどまでに憎悪を向けられるなんて。
雪杜くんはこの人との関係をなんとかするために、頑張ってくれていたのかな……。


「……奏雨の相手を、お前が勝手に決めるなよ」

「だからカナメは」

「奏雨の好きな人は、俺じゃないよ」


信じられない言葉に、後ろを振り返る。
まだソファーの背もたれに手をついた雪杜くんが、まっすぐ皐月さんを見つめていた。

その口角はゆるゆると力なく上げられる。


「出来損ないの俺なんかより、ずっと奏雨にお似合いの人だから」

「……オレ、そんなこと何も聞いてないんですけど」


怪しく笑ったのは、雪杜くんだ。
初めて見るその挑発的な笑みに痛いほど心臓が跳ねた。


「……あー、なるほどね。よくあるあれね。小さい子供が憧れを恋だと勘違うあれね。それをオレはバカみたいに信じて、バカみたいに頑張ってたってワケね。ウケる、はは。しかも出来損ないに教えられるとかよっぽど出来損ないなのはどっちだよって、くははっ!!!」


からからと笑いながら、自分に言い聞かせるみたいに続ける皐月さん。
今まで感じていた刺すような冷たい雰囲気が少し柔らかく、脆くなる。

そんなことない。

自分をそんなふうに言わないで。


「さ、皐月さんはバカじゃないよ!!」

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