雪のとなりに、春。
ピタリと笑い声が止んで、今日一大きく開かれたビー玉にとらえられる。
怖いなんて、今はもう感じない。


「奏雨ちゃんの為に頑張った皐月さんは、バカでもマヌケでも、出来損ないでもないよ!!」


お兄ちゃんだから。
守ってあげられるのは自分だけだから。

きっと幼いながらにそれだけを考えて頑張ってきたんでしょ?

私は。

「優しい人なんだろうな」と思ったあの皐月さんを信じたい。


「だからこれ以上自分を責めるのは……」

「萎えた。帰るわ」

「え」


ぷつんと張り詰めた糸が切れたように、だらりとうなだれた。

急すぎて状況をうまく飲み込めないでいる私を余所に、皐月さんはリビングをさっさと出て行ってしまう。


「あ、あのっ、きゃあ!?」


慌てて追いかけるようにリビングを出ると、着替えをしている皐月さんの体が目に飛び込んできて思わず悲鳴を上げる。

そんなのお構いなしに皐月さんは着替えを続けるから、私はとりあえず両目を手でふさいだ。


「……カノチャンさ」


静かに聞こえる声は、私が知ってる皐月さんの声だった。
そう、男の人にしては少し高い、この声を私は知っている。


「ナツメに、『その2はなくなったよ、ヨカッタネ』って伝えておいてくれる?」

「え……っ?」

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