雪のとなりに、春。
あとは……


「し、下はさすがに皐月さんにお願いしようかな!!」

「げええ、誰も喜ばないよそんなの」

「いいから!! 私に見られるよりは従兄に見られた方がいいと思う!! ので!!」

「痛っ!!」


タオルを皐月さんの顔に思い切り投げつける。

私は逃げるように部屋から出て、ドアに寄りかかったまま座り込んだ。
すぐ部屋の中から皐月さんの大きな声が聞こえてくる。


「カノチャンの鬼ぃ!!」

「何とでも言って!!」

「何が悲しくてオレがナツメの体拭かなきゃいけないんだよ!!」

「……ふふ」


ぶつくさと文句を垂れてはいるけれど、なんだかんだ力を貸してくれるのがおかしくて、笑みがこぼれる。

今日だけで一気にいろんな皐月さんを知ることができた。
勝手に距離も縮まったように感じて、また笑った。

……雪杜くんの身の回りのことを済ませたら、ゆっくりお話を聞かせてもらおう。


「わあっ!?」


急に寄りかかっていたドアが開かれて、体が後ろに倒れる。
「いたた……」と、何かに軽くぶつけた後頭部を押さえながら目を開けると、皐月さんと目が合った。


「カノチャン、ただいま拷問から帰還しました」


私を見下ろす皐月さんは、わかりやすくげっそりとしていた。
それもなんだかおかしくてふふっと微笑む。

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