雪のとなりに、春。
「作品になってほしい」の一点張りな彼に、小さくため息をついた。

ローファーに履き替え、彼を置いて先に生徒玄関を後にする。
随分と長い脚の彼はたった数歩でわたしに追い着いて、ちゃっかり隣を歩く。

彼の一歩に対してわたしが二歩。
それがなんだか気にくわなくてわざと大きく脚を開いて歩いた。


「めちゃくちゃ反抗期じゃん」

「だから、誰が反抗期よ!!」


くわっと牙を剥き出して睨んだ。

校門を出ても、当たり前のように同じ方向に向かっている。
なによ、あなたの家反対方向なんでしょ。
奈冷の家のすぐ近くだって言ってたじゃない。

……反対方向のわたしの家までわざわざ送るなんて、本当に意味がわからないわよ。


「奏雨、家に帰るまで少し付き合ってくれる?」

「はあ? なんでわたしがあなたなんかに付き合う必要が……っ」

「きっと楽しいよ?」

「……っ」


クセのついた長い髪が風になびいて、そこから優しく微笑む彼と目が合う。

無邪気。

芸術家の彼は、こんな表情もできてしまうのか。


「仕方ないわね……どうしてもと言うなら付き合ってあげなくもないわよ」


そんなふうに笑顔を向けられて、断れるわけないじゃないか。
かわいさの欠片も感じられない自分の返事に、思わずため息が出そうになる。

こんなことで動揺するなんて、本当にどうかしてるわ。

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