雪のとなりに、春。
「完璧じゃないとだめなの。そのためにここまでやってきたんだから……っ」


立ち上がって、エプロンを脱ぐ。
一気に血圧が下がって眩暈がしたけれど、お構いなしにブレザーを羽織った。


「悪いけど、わたしはこれで失礼するわ。さよなら」

「奏雨。危ないって」

「そうだよ。まだ事故の処理が終わってないし、回り道もないから」


心配してくれている2人をただ一瞥するだけで、わたしは鞄を手に取る。

優先順位は変わらない。一刻も早く帰らなければ。


「奏雨」


色相環に腕をつかまれるが、すぐに振り払う。
カアッと熱い何かが昇った。


「なによ!! あなたは小日向花暖の様子でも見てきたら!? 大事な幼なじみなんですものね!! わたしなんかの心配してないで、さっさと行きなさいよ!!」

「行かないよ」

「いいから行きなさいよ、わたしは1人だって大丈夫なんだから!!」

「行かない」

「だから……っ!!」


振り払ったはずの腕をもう一度つかまれて、強い力で引っ張られる。痛みはなかった。

そうして引き寄せられて、やがて彼の胸に頬が当たる。

わたしの腕を解放したばかりの彼の腕が背中に回って、強く抱きしめてくる。

ワイシャツとエプロンを通して、色相環の体温と鼓動が伝わってきた。


「っ、あなた、自分が今なにしてるかわかって……!!」

「奏雨、大丈夫」

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