雪のとなりに、春。
強く抱きしめてきた腕が、そっと頭に添えられて。
それからゆっくりと撫でてきた。

大丈夫、と何度も優しく声をかけられるから、感覚器官が麻痺するみたいに体の力も抜けていく。


「俺は、カノじゃなくて奏雨を心配してるんです」

「……」

「奏雨に安心して欲しいんです」

「……」

「奏雨の親御さんには俺から話しますんで」


麻痺しているはずの聴覚が、今度は研ぎ澄まされたように彼の声を拾ってくる。

ああ本当に、初めての感覚。初めての感情。

奈冷と一緒にいるだけではわからなかったものを、どうしてこの人はこんなにも簡単に与えてくるのだろうか。


「……なによ、急に敬語なんて使っちゃって」

「誠意的なのは伝わりやすいかと」

「……あなたのご両親にもご迷惑かけちゃうわ」

「そこは気にせず。ここで女の子返す方が怒られるんで、俺のためにも泊まってってください」

「…………」


素直にお願いする言葉が言えなくて、ただこくんと頷いた。

確かに、色相環の名はお母さんも知っているはずだ。
少なくとも彼本人から伝えられるのなら、他のどんな理由付けよりかは納得してくれるだろう。


「あのー……」

「っ!?」

「うわ!?」


突然聞こえる男の人の声に、思わず色相環を突き飛ばした。

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