雪のとなりに、春。
あっくんと呼ばれていた男が、気まずそうにへらっと笑っている。

わ、忘れてた……
わたし、なんてこと……!!

カアッと全身が熱くなる。恥ずかしくて今すぐ穴に入りたい。隠れたい。


「じゃあ、解決したみたいなんで、俺帰るわ」


「さっさと帰りなさいよ!!」と声を荒げそうになるのを必死にこらえる。

さすがに知り合いでもない人に失礼だ。

……できればそっといなくなっていて欲しかったのが本音なのだけれど。


「わざわざサンキューです、あっくん」


ひっくり返ったまま片手を上げる色相環を見て、あっくんとやらはにこりと笑う。
そして、えんじ色の瞳をわたしに向けてくる。


「あの、違ったらごめんなんだけど」

「な、んですか……?」

「雪杜って、もしかして総合病院の内科の先生のとこの……?」


お父さんのことだ。
瞬時に理解して、こくりと頷く。

この人はなんて言うんだろう。
ああ、いやだ。


「……いつも、お世話になってます」

「…………え……?」


わたしが思っていたのとは全然違う反応。
そう。その人は深く深く頭を下げたのだ。

いったいどういうことなのだろう。

理解ができないままいると、その人はまた明るく笑ってアトリエを後にしてしまった。

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