雪のとなりに、春。
「悪いのは奈冷だもん。3回も俺からの誘い断るんだもん」

「『もん』って、子供じゃないんですから……」

「ユキメ後輩よ、断った理由をさっさと吐け。カノが不安がってるぞ」

「え」


私は雪杜くんの肩がほんの少しだけ揺れたのを見逃さなかった。
それは環くんも一緒だったみたいで、彼の目がカッと開かれる。


「毎晩俺のアトリエに来てわんわん泣きやがる。おかげでこっちも作品に手がつけられないんだよ」

「えっ、ん!?」


全然知らない情報に思わず環くんの方を見る。

確かに不安は不安だけど、私は自分の魅力に対して悩んでいるだけで、雪杜くんに対して不安を抱いているわけじゃないよ!?
あと毎晩泣いてる!? それ、どこ情報!?

意見しようと口を開きかけたところを環くんの大きな手で止められてしまう。


「後ろ暗いことがあるんじゃないのか」

「……」


環くんから視線を逸らして下を向いてから、観念したように息をふうと吐く雪杜くん。


「……全部終わってから話そうと思ってたんですけど、それじゃだめですか」


もしくは、と、雪杜くんが私を見る。


「話すなら、まずは花暖先輩って決めてるんで2人は帰ってもらっていいですか」


いつになく真面目な雰囲気に、ごくんと唾を飲み込んだ。
それに気付いた環くんは優しく手を離してくれる。

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