雪のとなりに、春。
「どうしよう皐月さん!! え、え、熱が出た人には何をするのがいいの!? というか昨日から熱出てるんだよね!? なんで無理させたの!」

「だーーーからオレはナツメが嫌いだから、色々嫌がらせしてたのー」

「い、いやがらせ……?」


たらりと汗が流れる。

皐月さんがちょっとネジの外れてる人なのはわかった。
だからこそ、こんな人が考える「嫌がらせ」の内容がなんだか怖い。

雪杜くん、いったい何をされたんだろう……!?


「とゆーことで、オレはもう帰るね。お風呂って気分でもなくなったし」

「え、ちょ、皐月さ……」

「じゃーねカノチャン、がんば~」


ひらひらと手を振った皐月さんは、今度こそリビングを出て行ってしまう。
待って、せめて熱を出している人にどういうことをしてあげたらいいのかとか、あの、アドバイスの1つや2つ……!!


「ま、待って皐月さん!! 今の雪杜くんには間違いなく皐月さんが必要だよ!!」

「カノチャンて本当にバカだねー。オレには必要じゃないのー」


どうしても引き留めたいけれど、「帰りのバスもなくなっちゃうし」と言われてしまうと何も言えない。
せめて皐月さんを見送ろうと、玄関まで追いかけた。


「あ」


ドアノブに手をかけていた皐月さんは、くるりと私を振り返る。


「そういえば、今日助かったよ。ありがとうね」

「え……」


皐月さんはそれだけ言うと、にこりと笑って玄関を出て行ってしまった。

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