雪のとなりに、春。
「……し、失礼します…」


廊下と雪杜くんの部屋との温度差がさっきより鮮明に感じられる。やっぱり熱が上がってるのかもしれない。


「雪杜くん、こんな彼女でごめんね……」


タオルを固く絞って、雪杜くんの額にそっとのせた。
歪んでいた表情がすうっと落ち着く。

こっちの方が少しは楽みたい。やっぱり定期的に冷やした方がいいのかも。


「あ、あとはなにがいいのかな、こういうときどうしたらいいのかな!?」


ああもう、どうして皐月さん帰っちゃったんだろう。

どうしよう……環くんに連絡してみた方がいいかな……。でもまた子供扱いされそうだし……でも雪杜くんのためになにかしてあげたい……。


「……よし、連絡してみよう」


たしかスマホは荷物と一緒にリビングに置きっぱなしだったはずだ。
ついでに食器も洗ってしまおう!

私はもう一度リビングに向かってスマホを手に取った。


「……あああ」


なんということでしょう。

スマホの充電がなくなってしまっていた。
そりゃそうだ、今日はあれだけ地図アプリを多用してしまっていたもの。

どうしよう、ここから環くんの家まで走って15分くらいだけど、その間雪杜くんを1人にするのは心配だ……。

ここへ来て自分の無力さを改めて自覚して、悲しさと悔しさに押しつぶされそうになる。
やっぱり私じゃ看病なんて無理だったんだ。

今日の事故現場での件だって、雪杜くんと皐月さんから「ありがとう」と言われたことに違和感があった。だって、私は何もできなかった。

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