雪のとなりに、春。
「雪杜くん、いつもありがとうっ」


たくさん考えた。

お花屋さんに行くときも、帰りのバスの中でも。
今、このプレゼントを渡す直前までずっと。

部屋が明るくなったらいいな。雪杜くんが幸せでいられたらいいな。

そんな、特別でもなんでもない、普通の……どこにでもあるありふれた気持ちをどんなふうに伝えたらいいかわからなくて、たくさん考えた。

けれどやっぱり、これしかなくて。


「ありがと。先輩」


たった一言。

それでも、この一言は間違いなく雪杜くんに届いたのがわかるから、つられて私も笑顔になる。


「……先輩って、花に興味あったんだ」


花束と、アレンジメントを交互に見ながらそんなことを言われるから、頬に少し空気を溜めた。


「お、女の子だもん!! 花言葉だって店員さんに教えてもらって、少しは詳しくなったんだから!!」

「へえ、じゃあひとつひとつ説明してくれるの?」


雪杜くんは頭がいいから、花言葉だって分かっているはず。
なのに、わざと私に言わせようとしてる。

いつからこんなに意地悪になってしまったんだ。

挑戦的に笑む雪杜くんの周りを花が彩っているから、余計に魅力が増してドキドキする。


「ごめん、嘘。花を贈ってくれた相手に花言葉を聞くなんて、さすがにそんな失礼なことしないよ」

「やっぱり全部わかってるんだ!?」

< 179 / 246 >

この作品をシェア

pagetop