雪のとなりに、春。
もう一度立ち上がって、砂糖をとりに戻る。できるだけゆっくり。

その間にコーヒーがいいくらいの温度まで冷めてくれるのを期待した。


「皐月って、ハクの子か!! へえ、お前ら休みの日まで一緒にいるほど仲良かったんだな」

「……まあ?」


なわけあるか。

と言ってしまったら、間違いなく面倒なことになるので適当に相づちを打っておく。


嫌がらせにガムシロップを渡してやりたかったけれど、約10年ぶりの再会にそんなことするのはさすがに子ども過ぎるのでやめておく。

大人しくスティックシュガーを10本追加で持って行けば、迷わずコーヒーの中に投入した。


「ところで、そろそろ帰国した理由を聞いてもいい? どうせ用が済んだらまた向こうに帰るんでしょ?」


ほどよい温度まで下がっていることを確認して、今度こそコーヒーを口にした。
俺も砂糖を入れたらよかったと少し後悔する。

……さっきから俺は、何を大人ぶろうとしているんだろう。


「ああ、ハクの頼みでな」

「おじさんの?」

「そ。内科で診てる患者の件だよ。外科にコンサルしたいけどどうにも頼りないらしくてな。……あ、これ他に言うなよ?」


「わかってるよ」と呟きながらふた口目を含む。さっきまで感じていた苦みにやっと慣れてきた。

それにしても、あそこの総合病院のレベルは決して低くないはずだ。

なのに、なんでわざわざ父さんを頼ったんだろう。そんなに難しい症例なんだろうか。


俺と皐月の関係はあんな感じだけれど、父さん達の仲は悪くない。どちらかというといい方だ。

この調子だと、父さんが向こうに行ってからも定期的に連絡をとっていたんだろう。


「今日、その患者さんとご家族に挨拶してきたよ」

「と、いうことは」

< 187 / 246 >

この作品をシェア

pagetop