雪のとなりに、春。
「わかった」


すっかり熱の逃げてしまったコーヒーを、全部飲み干した。
慣れたはずの苦みが不思議と増している。


「じゃあ、そろそろ病院に戻るわ」


父さんの言葉にこくんと頷いて、同時に立ち上がる。
俺たちの様子に気付いた女性陣2人も同じように立ち上がった。

父さんと花暖先輩は軽く挨拶を交わしながら、母さんは俺をきつく抱きしめながら、それぞれ玄関へと足を進める。


「お父様とお母様に会えて光栄ですっ!! 雪杜くんは私が必ず幸せにします!!」


玄関で靴を履く両親に、先輩は鼻息混じりに誓いの言葉を述べた。
意気込みはわかったけど、それじゃあ俺の立場がないじゃないか。

少し眩暈がして壁に手をつく。熱が上がってきたのかもしれない。


「カノちゃん、よろしく頼んだわよっ!!」


ばっちんとウィンクをしてみせる母さんに、花暖先輩は背筋を伸ばして敬礼をして見せた。


「奈冷」

「なに?」

「明後日だ。学校終わったら来いよ」

「え……」


その言葉を残して、2人は家を後にした。
隣にいる花暖先輩は未だに1人できゃあきゃあと花を咲かせている。

……「明後日」とは、たぶんオペの日のこと、だよな……?

さっきは近々って言っていたのに、明後日? 急すぎじゃない?

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