雪のとなりに、春。
ルールだとか、世間の普通だとか。

そんなものにとらわれるのが嫌いで、とにかく自分の好きなようにするのが父さんだ。

雪杜家の暗黙の了解に嫌気が差したのも、俺の中に流れている父さんの血が悲鳴を上げたんだと思う。


……けど、明後日とは。せいぜい一週間後だと思っていたんだけど。


「雪杜くんのご両親、素敵な人たちだったね!!」

「先輩は本当に順応が早いよね」

「お母様がお父様のことをすごく楽しそうに話してくれるから、つい雪杜くんとのこともたくさん話しちゃった」

「ねえ、何話したの。嫌な予感しかしないんだけど」


ご機嫌にスキップでリビングに戻っていく先輩の後を、正反対に不機嫌丸出しのままついていく。

先ほど飲んだコーヒーの香りが一瞬だけ鼻をかすめるけれど、ソファーに座ったことですぐに花の香りに包みこまれた。


「普通に雪杜くんがかっこいいってお話をしただけだよ? えへへ、結婚式のお話までしちゃった……もう、お母様ったら気が早いんだから……」


隣に座っている先輩の周りにひらひらと花が舞う。

久しぶりだな、この感じ。

楽しそうで何よりだと思いつつ、いつもより数段赤い顔に違和感を覚えて、もしかしてと手を伸ばした。

そっと額に触れると、先輩はうるんだ瞳を大きく揺らせて俺を凝視する。


「……先輩、今日はもう帰った方がいい。送っていくから」

「え? だってまだ雪杜くんの体調が」

「気付いてないの? 多分これから熱上がるよ、先輩」


俺の言葉にまったく心当たりがない様子で、首を傾げてしまった。

この人は自分の体調に無頓着なタイプだったのか、と思ったところで気付く。

先輩の性格を考えたら、自然とそうなるに決まっているじゃないか。

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