雪のとなりに、春。
「あのさ」


花暖先輩の肩に手を置いて、真っ直ぐ桃色の瞳を見つめる。


たぶん今言うべきじゃない。分かってる。

けど、花暖先輩をいろんな圧から早く解放したい。


「やっぱり、やめよう」


体調を崩さないように。
ゆっくり、先輩のペースで。


きっと先輩なら俺の言葉に間違いなく反論するんだろうけど。熱が上がってきたせいで上手く思考が働いていない様子で、瞬きを何度か繰り返している。

……まあ、そうなるとわかっていて今話したんだけども。


肩に腕をまわして引き寄せる。思った通り先輩の身体はさっきと比べて急激に熱を発していた。

俺にもたれかかって樹を緩めた先輩は、程なくして目を閉じ、それから意識を手放す。


「もう頑張らなくていいよ」


短く呼吸をする先輩の頭を何度か撫でて、それから先輩の荷物をまとめた。

鞄はリュックを背負うようにして、ソファーで眠っている先輩の肩と膝裏に腕を通す。
そのまま静かに立ち上がれば、先輩の表情が少し歪む。


「ゆきもりくん……」


夢と現実の狭間なのか、それともすっかり夢の中なのか。
どちらにしたって、俺のことを呼んでくれるのは素直に喜びたいところだけど。


小さくため息を吐いて、そのまま先輩の家まで運んだ。


先輩のご両親に昨日からの経緯を説明して、それと同時に謝罪もしたけれど。
笑って、それから俺の心配までしてくれた。

やっぱり先輩の家はいつ来てもあたたかいし、やさしい。

一緒に休むように言われたけれど、さすがにそれは悪いのですぐに退散した。

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