雪のとなりに、春。
家は、先輩の家から歩いて15分ほどの距離にある。
身体は重たいので、もう少し時間がかかりそうだった。


「奈冷?」


ああ、今いちばん頼りたい人の声まで聞こえてくる。
おかしい。姿まで鮮明に見える。視覚までどうにかなったのか。


「なにしてんだよ、こんなとこで」


……幻聴にしてはクリアすぎて、首を傾げた。となりには奏雨の姿まで見える。
そこまで熱は上がっていないはずなのに、どうしたものか。


「タマキ、先輩? なんで奏雨……ああそうか、昨日先輩の家に泊まったんだっけ」

「お前、まだ体調よくないんじゃ」


タマキ先輩とは頻繁にやりとりをしている。そのせいか、何かを察した様子で急いで駆け寄ってくる。
隣にいた奏雨も、心配そうに顔をのぞき込んできた。


「!?」


瞬間、世界がぐるりと回る。
足が地についていない。

なるほど、タマキ先輩におぶられているのか。


「……は!?」


やっと意識が鮮明になって状況を理解する。
人におぶられるのは初めてだし、ただでさえタマキ先輩は背が高いから。

今まで見たことのない高さから見る景色に眩暈がする。


「送ってく。どうせ朝飯もまだなんだろ」

「いや、俺は大丈夫なんで……!!」

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