雪のとなりに、春。
暴れたいけど、この高さから落ちると思うと、手が勝手に先輩の肩をがっちりつかんでしまう。
花暖先輩を家に送った後だったのが不幸中の幸いなのかもしれない。


「奈冷、わたしも心配だからついて行くわ。今は大人しくして」


奏雨にまでこんなことを言われる始末。一晩で回復すると思ってたのに、情けない。

この数週間で皐月から受けたストレスは相当だったみたいだ。


「すみません……ありがとうございます」


ほっとしたのも、頼りたかったのも事実だから。
ここは素直に礼を言っておく。

タマキ先輩はそれ以上何も言わずに、俺をおぶったまま家まで送ってくれた。

奏雨が玄関を開けてくれて、その間にタマキ先輩が家の中に俺を運んでくれる。

……なんだろう、よく覚えている訳ではないんだけど、昨日もこんなことがあったような。
頭をジクジクと蝕むような痛みが出てきて、目を閉じた。


「とりあえず、リビングでよさそうか」

「……はい」


ゆらゆらと揺れるのが気持ちいい。

そのまま手放しそうになっていた意識をなんとかつなぎ止めていると、タマキ先輩がソファーにそっと下ろしてくれた。


「とりあえず朝飯食え。なんか作る。奏雨、奈冷頼めるか」

「わかったわ」


奏雨がタマキ先輩の家に泊まったことは、今朝の先輩からのメッセージで把握していたけれど……。
まさかここまで打ち解けているとは思わなくて正直驚いた。


「奈冷、体温測ろう。自分で身体拭ける?」

「……ん」

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