雪のとなりに、春。
いつの間に用意していたのだろう、奏雨から乾いたタオルを差し出された。
それを素直に受け取って、服の下から上半身の汗をぬぐい取る。

思っていたよりもじっとり汗をかいていたことに気付いて、俺も花暖先輩のことを言えた立場じゃないなと目を細めた。


「ん、なんだ、朝飯食ってたのか」


体温計を受け取って脇に挟んでいると、タマキ先輩がそんなことを口にした。

見れば、ダイニングテーブルに置いてあったコーヒーカップを手に取っている。


……ああ、そういえば片付けるの忘れてた。


「いや、突然父さんと母さんが帰ってきて」

「えっ、奈冷の!?」

「奈冷の!? 本当!?」


俺の言葉に2人が同時に同じような反応をするから、思わず何度も頷いてしまった。


「コーヒー一杯飲んで、そのまま病院に行ったよ。奏雨、何か聞いてない?」

「病院って……もしかしてお父さんの?」


奏雨の言葉にもう一度頷く。

そして、父さんが帰ってきたことの経緯を説明した。

奏雨は本当に何も知らなかったようで、何度か瞬きを繰り返している。
この様子だと、未だにおじさんは家に戻っていないらしい。

……もしかして、おじさんが家に帰られなくなったのは、その患者のことが原因だったのではないだろうか。

体温計に記されている数字の割に冷静にそんなことを考えていた時。


「奈冷、お前の冷蔵庫に野菜が!! 野菜が!!」

「な、なんですって!? それは本当なの色相環!?」

「………」


朝食の準備をしてくれようとしてたのには感謝したいが、人の冷蔵庫に野菜が入っていただけでそんなに驚かなくてもいいじゃないか。

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