雪のとなりに、春。
「……奏雨まで」


さすがに不機嫌になる。そう決めるより早く唇は尖っていた。


「皐月が、勝手に買ってきた」

「お、お兄ちゃんが!?」


ああそうだ。
奏雨は、皐月がここに入り浸っていたことも、俺に嫌がらせをしていたことを知らないんだった。

言ってもいいのだろうか。

皐月は小さい頃から俺を嫌っていた。
奏雨が見えていない隙を狙っては強い言葉を浴びせ、手や足を出してきたんだけれど。

……まあ、そのおかげで星空を眺めることが好きになれたわけなのだが。


「……昨日の事故で、偶然会って」

「ああ、例の交差点での事故だろ? お前らそこにいたのかよ」


いつの間にかその野菜で調理を始めてしまっているタマキ先輩を見てげんなりしつつ、昨日の事故の件も簡単に説明する。

以前皐月の奇行について話したときのあのショックを受けた顔を思い出し、さすがに話す気にはなれなかった。

なので、本当に偶然会って、その時偶然皐月が持っていた野菜をもらったていにした。

本当のことを知ったら、きっと奏雨は今後俺と会うことをやめてしまうと思ったから。
タマキ先輩には、また後ほど本当のことを話せばいいし。


……なんて思っていたら、できあがった野菜炒めがコトンと目の前に置かれる。

「え」とタマキ先輩を見れば、ずいっと箸を差し出された。

にこりとした表情が「食え」と言っている。

大人しく箸を受け取って、もう一度野菜炒めに視線を戻した。


もやし………は、ギリいける。
キャベツも、呼吸を止めればなんとか食える。


……でもにんじんは嫌だ。

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