雪のとなりに、春。
たぶん、この人なら奏雨の狭められた世界を広げてくれるんだろう。

心配そうに俺を見つめる奏雨を見て、口角を上げた。


「奈冷……?」

「奏雨、タマキ先輩といて、楽しい?」

「な……っ!? きゅ、急に何を言い出すのよ!? だいたい会って間もないのにぐいぐい距離を詰めてきて訳のわからない言葉を並べる奴よ!?」

「奏雨ちゃん? それ誰のことかな?」


あーあ。せっかくタマキ先輩に聞こえない程度に声量をおさえたのに。

去年の俺も、こんな感じだったんだろうか。
だとしたらすごく子どもっぽくて、おかしくて。

すごく人間らしい。


「ほら、環くん特性の野菜スープだ……っておい、まだ野菜炒め全然食ってねえじゃん」

「2人で食べてくださいよ。俺はカップ麺があるんで」

「いや、一応見たけど一個もないぜ? お前のカップ麺」

「……………」


皐月……。

思い当たる節に対して思い切り舌打ちをしそうになる。

奏雨がいる手前、さすがにそんなことはできないので、ただうなだれた。
急に下を向いたせいでぐらりと眩暈に襲われる。
そうだ、今熱があったんだった。


「あーんしてやろうか?」

「……自分で食べます」

「にんじん避けちゃだめよ奈冷、全部食べなくちゃ」

「ほら、これ奏雨の分な」

「あ、え……っ、あ、ありが、とう……」

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