雪のとなりに、春。
「…………」


靴棚に置かれている、可愛らしい薄いピンクの封筒を目にして、一瞬固まる。

……先輩と付き合っていることはすでに知れ渡っているはずなのに、2年になってからこういうのが急に増えた。

ぎゃんぎゃん言い合いをしている先輩達が後ろから近づいてきたので、その手紙をそっと制服のポケットにしまう。


先輩達を置いて、そのまま教室に向かった。


「奈冷!! はよ!!」


教室の前まで来たところで、後ろから元気よく声をかけられる。

振り返れば、黒髪短髪の爽やかな笑顔を浮かべた男が、片手を挙げてこっちに駆けてきている。

肘の高さまで手を挙げて、また教室に入ろうとしたとき。
ぐいっと腕をつかまれて転びそうになる。


「ちょ……っ!?」

「待てよなんで置いていくんだよー!!」

「別に、席も前後なんだからわざわざ待ってる必要ないでしょ」


こいつの元気のよさに今まで何度か救われたこともあった。

けど、トーガ先輩の話と単純に病み上がりなことも相まって、今日ばかりは気力が吸い取られる。


俺の周りにはどうしてこうも距離感がバグっている人しかいないのだろうか。


(つづみ)、腕に絡みついてこないでくれる。歩きづらい」

「いーじゃん俺らの仲だろ、って……ん!?」

「な、なに」

「おま……これはっ!?」


ツヅミが俺の制服のポケットから見つけたそれを器用に抜き取る。両手で握りしめ、はわわと女子のような声を上げた。

ああ、せっかくトーガ先輩たちに見つからないようにしていたのに。

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