雪のとなりに、春。
せっかく素直にお礼を言ったのに、「信じられない」と言いたげに目を大きく見開かれる。

気付けば「は?」と口から声が漏れていた。

こういうすぐムッとしてしまうところはいつまで経っても直らない。
子供っぽい一面であることは自覚しているので、できれば早くどうにかしたいとは思っている。

クセを直すってなかなか難しい。


「奈冷、お前も『ありがとう』なんて言えるくらい成長したんだな……俺めっちゃ感動した……あと笑えば可愛いな……もう一回笑ってくれていいんだぜ?」

「ふざけないでよ」


俺だって礼くらい言えるし。

……まあ、ツヅミのおかげで手紙の一件はなんとか回避できそうだ。

あとは放課後。
まっすぐ病院に向かうだけ。

胸が(とどろ)くように躍る。
朝からやたらと喉が渇く。

緊張、してるんだ。

あまりにも速い心拍のせいで息が苦しくなる。
一度ふうーっと細く長く肺の空気を吐き出せば、いくらか楽になった。


内容は分からないけれど、約10年ぶりの憧れの人との再会。
それはこんなにも簡単に俺の全部を簡単に支配してしまう。


無邪気に父さんの話を聞いていた頃の記憶は、すっかり薄れてしまったけれど。

心がこんなにも鮮明に覚えている。


授業なんてなにも頭に入ってくるわけがない。

移動教室の時もボーッとして壁にぶつかりそうになって、何度かツヅミに笑われた。


……今日は、随分と時の流れが遅く感じる。

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