雪のとなりに、春。
***

「……ああああ……」


思い出した。
そうだ、確かに今朝雪杜くんは家に寄ってくれていた。

しかも初めてお部屋にお招きしたのがこんな形で、そのうえ記憶も曖昧で……っ。
数々の失態に再度頭を抱えていると、隣からため息が聞こえてきた。


「奈冷はこれから病院に行くってよ」

「え……雪杜くん、具合まだよくなってなかったの!?」


ずくりと太い針が胸に突き刺さった感覚にひどく焦る。
けど、環くんが首を横に振ってくれたおかげてその焦りはすぐに消えた。


「奈冷の父さんから今日の放課後に病院に来いって言われたんだと」

「……そ、ういえば……」


雪杜くんのご両親を玄関まで見送ったとき。
お父様がそんなことを言っていたような……?


「あと、お前と話したいって奴も連れてきた」

「え」


環くんが、ドアの方に向かって優しく微笑んでから小さく頷いた。
見れば、整ったお顔の半分くらいだけ見せている……


「か、奏雨ちゃん!?」


私が興奮気味に名前を呼べば、少し恥ずかしそうに下を向いたまま一歩前に進んで部屋に入ってきてくれた。
腰まである長さの髪の毛が、後を追いかけるようにふわっとなびく。
そうして定位置に戻るように肩に流れ落ちた。

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