雪のとなりに、春。
「……わたし」


猫みたいに綺麗なガラス玉の位置があっちこっちを見て、いっこうに視線がぶつかる気配がない。
もじもじとお腹の前で両手を握っては離しを繰り返している。

緊張しているのかもしれない。
……ううん、恥ずかしがってる?


「あ、あなたのこと、誤解してたみたい、で」

「…………」


小さく、風鈴が奏でるような声が一言ずつ紡がれるのを聞き逃すまいと、自然と呼吸が静かになる。


「きつくあたって、ごめん、なさい」


スカートの裾をぎゅっと握って、伝えてくれた。
正直奏雨ちゃんはなにも悪くないし、小さい頃から好きだった人をぽっと出の人間にとられたなんて知ったら、そりゃあ嫌な気持ちになるはずだもの。

奏雨ちゃんが怒るのも無理はないし、どちらかというと私が自分のことしか考えられなかったせいで余計に嫌な思いをさせてしまったんだ。


「ううん、私のほうこそごめんねっ。今日、来てくれてありがとうっ」


環くんに手招きをされた奏雨ちゃんは、遠慮がちに隣に腰を下ろした。

一度下に落としたガラス玉が控えめに私を見つめてくる。
視線が交わると、少し申し訳なさそうに微笑んだ。
奏雨ちゃんが私に向かって微笑んでくれるのが嬉しくて、トクントクンと心臓が明るく鳴る。


「そ、それで? 体調はどうなのよ」


表情とは対照的にぽいっと放り投げるみいたいな言い方。
それでも、以前のようなトゲは見あたらない。


「うん。少し頭痛がするだけで、熱も下がったと思う!」

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