雪のとなりに、春。
雪杜くんが、本当にしたいこと。
誰のためでもなく、雪杜くんがしたいこと。


「カノ」


それまでずっと黙っていた環くんに名前を呼ばれる。
視線を奏雨ちゃんから横へとずらすと、優しい表情が私を待っていた。


「お前もお前のやりたいこと、そろそろ見つけたんじゃねーの?」

「私の……」


ずくん。
簡単には手が届かない、芯の部分。ずっとずっと身体の奥底が熱い。


「はい、これ」

「え」


重ねられた手の向きがくるりと反転する。
その手のひらには……薬が。


「市販の鎮痛剤。まだ頭痛残ってるんでしょう?」


視線を下に落としたまま、口元を尖らせてはいるけれど。
心配して、それから背中を押してくれているのが伝わってくる。

ありがたく頂戴して、お母さんが枕元に用意してくれていた水で鎮痛剤を飲んだ。
冷たい水が体の中にすーっと染み渡る。


「奏雨ちゃん、環くん、ありがとう!!」


ベッドから降りて、背筋をぴんと伸ばして。
それからぐっと拳を握る。

元気も勇気も全回復!!



めまぐるしく走り回って周りの景色なんて楽しむ余裕がない毎日。

桜舞うあの季節に君を見つけた。
青い桜がパッと咲いたような笑顔を浮かべる君を見つけた。

本気の好きをぶつけてそうしてやっと両想いになれた。

走り方なんて忘れて、すっかり君の元にとどまったの。
疲れたときは一緒に雨宿りできたの。

それでも足りなくて、もっと君に近づきたくて。

全部好きだから。
でも、間違いなく君の笑顔が一番好きだから。


頬をパンッと叩いて、気合いを入れる。



「雨宿りなんて、もうやめた!!」



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