雪のとなりに、春。
隣から初めて舌打ちと文句以外の言葉が聞こえてきた。
察してはいたが、皐月の父さんも一緒のようだ。

向こうは向こうで俺と皐月に対して何か企んでいるのだろうか。

時間的にオペは終盤……速ければもう終わっている頃だと思うけれど、本当に俺たち2人になんの用だろう。


院内の表示を頼りにオペ室へ向かう途中。

「ご家族待機場所」と書かれたスペースに目がとまった。
オレンジや黄色を主体とした明るい空間、広々としたラウンジだ。

その隅。

大柄な男性が1人。
背中を丸めてテーブルの上で両手を握りしめて、祈るように顔を埋めている。

父さんが担当している患者のご家族……か?


「……?」

「……あ、」


俺たちの気配に気付いたのか、顔をあげた男性と視線がぶつかる。

思わず声が漏れた。


「……もしかして、紫乃(しの)の友達かな?」

「あ、いや、俺たちは……」


……シノ。
それが患者の名前なのだろうか。

というか黙ってないでお前も何か言えよ。

横にいる皐月を軽く睨めば、意外にも皐月は複雑そうに表情を歪めている。

知り合い……ではなさそうだけど、まったく知らないというわけでもなさそうだ。

おじさんから少しは話を聞いているのかもしれない。


「あいつ今売店に行ってて、ごめんなあ」


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