雪のとなりに、春。
カラリと乾いた声で陽気な笑顔を浮かべている。

売店に行っているということは患者ではなさそうだし、娘さん……だろうか。


「昔からそうなんだ。泣きそうになるとすぐに売店に行って、必ずプリンを買ってくる」

「……」


いったい何時間、ここでこうして待っていたんだろう。

疲労の色が浮かんでいるから、それでも必死に笑顔で取り繕っているのが余計に痛々しくて。

動くことも、声を出すことも難しくて。

少しでも音を立てないように静かに呼吸をすることしかできない。


「もう何年になるか……予後不良だと言われて、いろんな薬を試して、入退院を繰り返して、もう今年で7年目だ」

「……その後の病状の変化に伴い、化学療法も試されたとも、聞いています」

「え」


さっきからだんまりだった皐月が唐突にそんなことを言うから、また声が漏れた。

化学療法……抗がん剤だ。

父さんが今切っている患者の病気というは、癌だったのか。

7年間、入退院を繰り返したと言っていたけれど、それはその間に再発や転移を繰り返してきていたということだ。

きっと化学療法だけじゃない。他の治療だってしてきたはず。


……なるほど、内科であるおじさんが父さんに頼るのも頷けるかもしれない。


「本当に、色々頑張ってきたんだ。それでも、どんなにあらかじめ説明されていたとしても、日に日に細く弱々しくなっていくのを目の当たりにするのはつらかったよ」

「…………」


俺や皐月に気を遣わせないように、明るく話す男性。
きっと患者の前ではもっと明るく振る舞っていたんだろう。

病気と戦っていたのは、患者だけではなかった。


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